懲戒処分のリスクと対策~正しく運用できていますか?

2025年9月8日(月)

懲戒処分のリスクと対策~正しく運用できていますか?

企業は、多様な価値観を持つ個人を組織して事業活動を行っています。使用者は、労働者が守るべきルール「服務規律」を定め、これに違反した労働者に対しては制裁として懲戒を行うことができます。懲戒は、企業秩序を維持し、円滑な事業活動をするために必要不可欠な企業活動の一環です。
しかし、その一方で、不適切な懲戒があれば、企業への不信感や新たなトラブルを生み、労働者との間で訴訟にまで発展することも少なくありません。
本コラムでは、懲戒における正しい運用と留意点をご紹介します。

【懲戒処分とは】
懲戒処分とは、使用者が、労働者の服務規律違反行為に対して行う制裁(不利益な措置)です。具体的には、戒告・けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがあります。
なお、違反行為への制裁である懲戒処分とは別に、人事権の行使として、自宅待機や休職、降格などといった措置もあります。

【懲戒を考えるタイミング】
懲戒を考えるタイミングは様々ありますが、次のような場合が考えられます。
・重大な違反行為(犯罪行為なども含む。)が発覚した場合
・再三の注意指導を行っても意に介さず、違反行為が改善しない場合
職場にこのような状況があって人事に悩むようなことがあれば、懲戒を考えても良いかもしれません。

【懲戒の運用】
労働契約法第15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定めています。
まず、懲戒することができるというためには、就業規則などの労働契約上の根拠があることが必要です。自社では、どのような懲戒制度となっているのか、雇用契約書や就業規則などの条文を今一度お確かめください。
また、労働契約上の根拠がある場合でも、「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」、懲戒は無効となります。
特に、最も重い処分である懲戒解雇は、雇用契約を一方的に終了させる非常に重い処分であり、正当と認められる場合は限られます。安易に懲戒解雇を選択した結果、逆に、会社側が「不当解雇」として訴えられ、多額の請求がされる場合もあり、注意が必要です。

【懲戒処分を行う際の留意点】
懲戒処分を行う際の留意点としては、主に次のような点が考えられます。
・本当に違反行為があったと認定できるか、違反行為を示す証拠は信用できるか。
・違反した労働者の言い分(動機や反省)にも十分に耳を傾けたか。
・社内に先例はないか、また今回の懲戒が将来先例として参照されても妥当か。
・違反行為に対する懲戒の重さが、重すぎず、軽すぎず、社会的に妥当な内容となっているか。

【さいごに】
起業してから一度も懲戒を行ったことがない企業も少なくないと思われます。そのような場合、初めての懲戒で、運用も全く確立しておらず、分からないことばかりかと思います。
しかし、懲戒は、適切に運用すれば、労働者にとっても働く際のルールが明確になり、企業秩序が維持され、全体としてより働きやすい職場環境をもたらします。
懲戒処分の無効を主張されることを警戒するばかりに、軽すぎる懲戒処分では、企業秩序は守られません。企業の秩序を維持するためには、労働者の違反行為の内容に応じて、軽過ぎず重過ぎない、適時の懲戒処分を、臆せず、厳正に行う責任があると思います。
 


懲戒処分に関して就業規則を見直したい、お困りごと、疑問点等がございましたら、
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弁護士 伊藤颯馬(鹿野・森田法律事務所)
令和7年度 仙台市雇用労働相談センター相談員

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