これからの時代の多様な人材活用 ~シニア人材の活用:定年後再雇用で気を付けたい法的ポイント~

2025年10月6日(月)

これからの時代の多様な人材活用 ~シニア人材の活用:定年後再雇用で気を付けたい法的ポイント~

多くの企業では、定年後も引き続き働きたいという意欲の高いシニア層に対し、「定年再雇用制度」を通じて雇用を継続しています。これは、高年齢者雇用安定法に基づく企業の義務であると同時に、長年の経験・知識を持つベテラン人材の力を引き続き活用できる貴重な機会でもあります。
一方で、再雇用時は賃金が下がったり、仕事内容が変更になったりと、待遇の違いなどから、適正に対応しないとトラブルに発展することもあります。
そこで、本コラムでは、定年後再雇用時における労働条件の提示に関する注意点についてご説明します。

【原則:労働者が希望する労働条件で再雇用する義務はない】
定年後再雇用をするにあたっての労働条件ですが、原則として、労働者が希望する労働条件で再雇用をする義務はありません。
厚生労働省の「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」においても、「高年齢者雇用安定法が求めているのは、高年齢者の安定した雇用を確保するための制度の導入であって、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく、事業主が自社の状況等を踏まえ、合理的な裁量の範囲での条件を提示した場合には、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年齢者雇用安定法違反となるものではありません」とされています。
したがいまして、会社が提示した労働条件を労働者が受け入れず、再雇用契約の締結に至らなかったとしても、原則として違法ではありません。

【例外:従前と大きく異なる賃金・業務内容を提示する場合には注意が必要】
ただし、提示した労働条件が、賃金・業務内容等において、従前と大きく異なる場合には、不法行為と判断される可能性があるので注意が必要です。
例えば、名古屋高裁平成28年9月28日判決は、事務職としての再雇用は拒否し、1年間のパートタイマー(1日4時間、時給1,000円)として清掃などの単純労務作業を内容とする労働条件を提示したことに関して、裁判所は、事務職の業務の有無を十分に検討したとは言えないなどとして、不法行為に該当する旨判示し、慰謝料請求を認めています。
また、福岡高裁平成29年9月7日判決は、月収ベースで定年時の給与と比較して約75%減少につながる短時間労働者の労働条件を提示したことについて、それを正当化する合理的な理由は認められないとして、不法行為に該当する旨判示し、慰謝料請求を認めています。
したがいまして、定年後再雇用時における労働条件の提示は、上記のような点に留意をして行う必要があると言えます。


そのほかにも、定年後再雇用を巡っては様々な問題がありますので、対応にあたって疑問やお困りごとがございましたら、お気軽に仙台市雇用労働相談センターにご相談ください。
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弁護士 佐藤 康浩(弁護士法人三島法律事務所)
令和7年度 仙台市雇用労働相談センター相談員

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