2021年9月29日(水)
どちらを優先!?年次有給休暇繰り越しの意外なルール
正社員かアルバイトかを問わず、出勤率8割以上かつ勤続6ヶ月以上の条件を満たした労働者には一定日数の年次有給休暇(いわゆる年休や有休)が与えられます。
この年休ですが、実は時効が2年間と定められていることはご存じでしょうか?1年以内に使いきれなかった年休はその時点で消滅せず、もう1年間の猶予が有るのです。
ところがここで1つの問題が生じます。年休は出勤率8割以上の要件を満たす限り、1年6ヶ月、2年6ヶ月・・・と毎年与えられていきます。そうすると前年に与えられた年休を使いきれず何日分か残った場合、その年休と新しく与えられた年休とが混在することになります。
このような場合、前年から繰り越した年休と新しく与えられた年休のどちらから消化していかなければならないのでしょうか?
実は、労働基準法には何ら決まりが有りません。どちらから消化しても構わないのです。そのため、例えば就業規則にて「前年から繰り越した年休と新しく与えられた年休とが混在する時は、新しく与えられた年休から消化するものとする」と定めても違法ではありません。
このように記すと、「それだったら社員たちに内緒で新しい年休から消化するように就業規則を変更しておけば、古い年休を消化させないまま時効で消滅させることもできるんじゃないか?」といった考えを思い付く経営者もおられるかもしれません。
しかし、そのような方法は当然ながら通りません。そもそも「社員たちに内緒で就業規則を変更しておく」という行為そのものが労働基準法違反です。就業規則を変更するときには、労働者側の代表的な人物から意見を聞くことが使用者には義務付けられているのです。
また、仮に労働者代表から意見を聞いていたとしても、労働者全体に対する説明が不足していると大きなトラブルの原因になりかねません。
何でもすぐに調べられるようになった現代社会では、労働者の間でも「年休の時効は2年間」という認識が浸透しつつあります。そのように法的知識を備えた労働者が、古い年休から消化するものと思い込んで計画的に年休を消化していったところ、実は社内ルールでは新しい年休から消化することになっていた、そのために想定していた日数を消化しきれなかった・・・などという事態が生じてしまったら大変です。
労働者にとって、年休は重大な関心ごとの一つです。ここで労働者の期待を裏切ってしまうと、労働者の心は使用者から大きく離れていってしまいます。労使がよく話し合い、お互いが納得できる形で運用できるよう心がけてください。
特定社会保険労務士 中島 文之
社会保険労務事務所たすく 代表
平成25年に開業登録後、「社会保険労務士事務所たすく」(旧名FP&SR オフィスONE)を開設し現在に至る。
「適切な労務管理なくして企業の発展なし」をモットーとし、個別労使紛争のあっせん代理など様々な業務に携わる。とりわけ厚生労働省の助成金については、より多くの企業に活用していただけるよう力を入れて取り組んでいる。