2025年12月12日(金)
会社(法人)設立後に必要な社会保険【Part1】 ~まず知っておくべき基本~
会社を設立した皆様、おめでとうございます。法人設立という大きな一歩を踏み出されたことと思います。
しかし、設立後すぐに対応しなければならない重要な手続きがあります。それが「社会保険の加入」です。
「まだ従業員を雇う予定がないから大丈夫」と思われるかもしれませんが、実は法人の場合、役員だけであっても社会保険への加入が義務付けられています。
本コラムでは、会社設立後に必要となる社会保険の基本について解説します。
目次
1.【基礎知識】そもそも社会保険とは?
社会保険とは、病気やケガ、失業、老後などのリスクに備えるための公的な保険制度です。
広義には以下の5つの保険を指します。
- 健康保険
業務外の病気やケガの治療費を補償する保険です。
会社員やその家族が加入し、医療機関で保険証を提示することで、医療費の自己負担が3割(年齢等により異なる)で済みます。 - 厚生年金保険
老齢・障害・死亡時に年金を受け取るための保険です。
国民年金に上乗せされる形で加入し、将来受け取る年金額が増えます。 - 介護保険
40歳以上の方が加入する保険で、介護が必要になった際のサービス費用を補償します。
健康保険料と一緒に徴収されます。 - 雇用保険
失業した際の生活保障や、育児・介護休業時の給付、職業訓練などを目的とした保険です。
従業員を雇用する場合に加入が必要です。 - 労災保険(労働者災害補償保険)
業務中や通勤中の病気・ケガ・死亡などを補償する保険です。従業員を1人でも雇用する場合、加入が義務付けられています。
保険料は全額事業主負担です。
【用語の整理】
一般的に「社会保険」という言葉は、健康保険と厚生年金保険を指すことが多く、雇用保険と労災保険は「労働保険」と呼ばれ区別されます。
2.【重要】法人は社会保険の加入が原則義務 ― 役員だけの会社であっても
個人事業主の場合は従業員数などの条件によって社会保険の加入が任意の場合もありますが、法人(株式会社、合同会社、一般社団法人など)の場合は、事業の種類や規模に関わらず、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が法律で義務付けられています。これは健康保険法第3条および厚生年金保険法第6条に定められた適用事業所の規定によるものです。
■ 重要なポイント:従業員がいなくても加入義務がある
代表取締役1人だけの会社であっても、役員報酬を受け取っている限り、
健康保険と厚生年金保険に加入しなければなりません。
【加入義務がある役員】
- 代表取締役
- 業務執行権限を持つ取締役
- 報酬を受け取る役員
逆に、報酬のない非常勤役員などは加入対象外となる場合があります。
■ 法人化した場合の切り替え
従来、国民健康保険と国民年金に加入していた個人事業主の方が法人化した場合、これらから脱退し、健康保険・厚生年金保険に切り替える必要があります。保険料負担は増えますが、将来受け取る年金額が増える、傷病手当金などの給付が充実するといったメリットもあります。
3.【パターン別】雇用の有無で変わる社会保険の種類
会社設立後に必要な社会保険は、従業員を雇用するかどうかで大きく変わります。
■パターン1 : 従業員を雇用しない場合(役員のみ)
【加入必須の保険】
- 健康保険
- 厚生年金保険
- (介護保険) ※40歳以上の場合
【加入不要の保険】
- 雇用保険
- 労災保険
役員のみの会社では、労働保険(雇用保険・労災保険)への加入は原則不要です。
ただし、役員であっても従業員的な立場で働く「兼務役員」の場合は、雇用保険に加入できるケースもあります。
■パターン2 : 従業員を雇用する場合
【加入必須の保険】
- 健康保険
- 厚生年金保険
- (介護保険) ※40歳以上の場合
- 雇用保険
- 労災保険
従業員を1人でも雇用する場合、労災保険への加入が必須となります。
雇用保険と社会保険(健康保険・厚生年金)については、従業員の勤務形態によって加入要件が異なります。
4.【加入基準】従業員が社会保険に加入する基準
従業員を雇用した場合、その従業員が社会保険に加入するかどうかは、
勤務時間や雇用形態によって決まります。
① 正社員・フルタイム従業員の場合
【原則】すべての保険に加入
- 健康保険:加入
- 厚生年金保険:加入(70歳未満)
- 介護保険:加入(40歳以上)
- 雇用保険:加入
- 労災保険:加入
2ヶ月を超えて雇用される見込みがある正社員やフルタイムの従業員は、
原則としてすべての社会保険・労働保険に加入します。
② パート・アルバイト(短時間労働者)の場合
パートやアルバイトなどの短時間労働者の場合、勤務時間や勤務日数によって加入要件が異なります。
【社会保険(健康保険・厚生年金)の加入基準】
- 基本ルール:正社員の4分の3以上勤務
週の所定労働時間および月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上(おおむね週30時間以上)の場合は、
会社の規模に関係なく社会保険への加入が必要です。
【要件】
- 週の所定労働時間が正社員の4分の3以上
- 月の所定労働日数が正社員の4分の3以上
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
※特例ルール:従業員数51人以上の企業(2024年10月から)
正社員の4分の3未満の勤務でも、以下の4つの要件をすべて満たす場合は社会保険への加入が必要です。
【要件】
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上(年収約106万円以上) ※残業代、賞与、通勤手当等は含まない
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
- 学生でない(夜間・定時制・通信制は除く)
この特例ルールが適用されるのは、従業員数51人以上の企業です。
従業員数50人以下の企業では、基本ルール(4分の3基準)のみが適用されます。
【適用拡大のスケジュール】
- 2022年10月~:従業員数101人以上の企業
- 2024年10月~:従業員数51人以上の企業 ★現在★
- 2027年10月~:従業員数50人以下の企業へも段階的に拡大予定
【雇用保険の加入基準】
雇用保険は、以下の条件を満たす従業員が加入対象となります。
【要件】
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
社会保険よりも加入のハードルが低く設定されています。
【労災保険の加入基準】
労災保険は、雇用形態や勤務時間に関係なく、すべての従業員が対象となります。
1日だけのアルバイトであっても労災保険は適用されます。
③ 加入基準の具体例
- ケース1:週40時間勤務の正社員を雇用
→ 健康保険○、厚生年金○、雇用保険○、労災保険○(すべて加入) - ケース2:週25時間勤務のパート(従業員数60人の企業)
→ 健康保険○、厚生年金○、雇用保険○、労災保険○ (正社員の4分の3以上なので全て加入) - ケース3:週25時間、月給12万円のパート(従業員数60人の企業)
→ 健康保険○、厚生年金○、雇用保険○、労災保険○ (週20時間以上、月給8.8万円以上で51人以上企業なので全て加入) - ケース4:週15時間勤務のパート(従業員数60人の企業)
→ 健康保険×、厚生年金×、雇用保険×、労災保険○ (週20時間未満のため労災保険のみ) - ケース5:週25時間、月給12万円のパート(従業員数40人の企業)
→ 健康保険×、厚生年金×、雇用保険○、労災保険○ (50人以下企業は特例適用外、正社員の4分の3未満のため社会保険は不要)
④ 70歳以上の従業員の場合
70歳以上の従業員は厚生年金保険への加入義務がなくなりますが、
健康保険には引き続き加入します。また、雇用保険は65歳以上で新たに雇用された方も加入対象となります(2017年1月から)。
75歳以上の従業員は後期高齢者医療制度の被保険者となるため、健康保険の加入義務もなくなります。
⑤外国人従業員の場合
外国人従業員であっても、適法に就労している場合は日本人と同じ基準で社会保険に加入する必要があります。
ただし、社会保障協定を締結している国からの派遣労働者などは例外規定があります。
詳細については、厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイトをご参照ください。
【まとめ】
今回は、会社設立後に必要な社会保険の基本と、従業員の加入基準について解説しました。
※覚えておきたいポイント※
- 法人は従業員がいなくても健康保険・厚生年金への加入が義務
- 従業員を雇用したら労災保険・雇用保険も必須
- 従業員の加入基準は勤務時間・会社規模・賃金額で決まる
- 週30時間以上勤務なら原則全員加入
- 週20時間以上で51人以上企業なら要件次第で加入
次回のコラムでは、実際の加入手続きの方法と、未加入の場合のリスクについて詳しく解説します。
【参考リンク】
手続きや制度について不明な点がある場合は、当センター相談員の社会保険労務士や、お近くの年金事務所にご相談ください。
ご相談はこちら
社会保険労務士 山田 拓(社会保険労務士法人エリクス)
令和7年度 仙台市雇用労働相談センター相談員
よく読まれているコラム
