会社(法人)設立後に必要な社会保険【Part2】 ~実際の手続きと注意点~

2025年12月15日(月)

会社(法人)設立後に必要な社会保険【Part2】 ~実際の手続きと注意点~

前回のコラムでは、会社設立後に必要な社会保険の基本と、従業員の加入基準について解説しました。
今回は、実際の加入手続きの方法と、加入を怠った場合のリスクについて詳しくお伝えします。


1.【手続き窓口】手続きは3か所で (年金事務所、労働基準監督署、ハローワーク)

社会保険の加入手続きは、管轄する機関が異なるため、複数の窓口で行う必要があります。

① 年金事務所
【手続き内容】

  • 健康保険・厚生年金保険の新規適用届
  • 被保険者資格取得届

【提出期限】

会社設立から5日以内(新規適用届)
従業員雇用・資格取得から5日以内(資格取得届)

【必要書類の例】

  • 法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
  • 事業所所在地を確認できる書類(賃貸借契約書など)
  • 役員報酬が確認できる書類(議事録など)
  • 従業員の雇用契約書、出勤簿、賃金台帳
    ※詳細は日本年金機構のウェブサイトをご確認ください。

②労働基準監督署
【手続き内容】

  • 労災保険の保険関係成立届
  • 労働保険概算保険料申告書

【提出期限】

従業員雇用により保険関係が成立した日の翌日から10日以内(保険関係成立届)
保険関係成立日の翌日から50日以内(概算保険料申告書)

【必要書類の例】

③ハローワーク(公共職業安定所)
【手続き内容】

  • 雇用保険の適用事業所設置届
  • 雇用保険被保険者資格取得届

【提出期限】

適用事業所設置日の翌日から10日以内(設置届)
雇用日の翌月10日まで(資格取得届)

【必要書類の例】

  • 法人登記簿謄本
  • 労働者名簿
  • 出勤簿またはタイムカード
  • 賃金台帳
  • 雇用契約書
  • 労働基準監督署で受理された労災保険の成立届(控え) ※一元適用事業の場合

2.!!重要!! 手続きの流れ― 一元適用事業と二元適用事業の違い

労働保険には「一元適用事業」と「二元適用事業」の2種類があり、手続きの方法が異なります。

■ 一元適用事業の場合(ほとんどの会社が該当)

一般的な小売業、サービス業、製造業など、多くの事業所が一元適用事業に該当します。

【手続きの順序】

年金事務所 → 健康保険・厚生年金の新規適用届を提出
労働基準監督署 → 労災保険・雇用保険の保険関係成立届を提出(まとめて1本で提出)
ハローワーク → 雇用保険の適用事業所設置届・資格取得届を提出
※ハローワークでの手続きには、労働基準監督署で受理された保険関係成立届の控えが必要です。
労働基準監督署での手続きを先に行ってください。

■ 二元適用事業の場合

建設業、農林水産業、道路貨物運送業、港湾運送業などが二元適用事業に該当します。

【手続きの方法】

年金事務所 → 健康保険・厚生年金の新規適用届を提出
労働基準監督署 → 労災保険の保険関係成立届・概算保険料申告書を提出
ハローワーク → 雇用保険の保険関係成立届・適用事業所設置届・資格取得届を提出
※二元適用事業では、労災保険と雇用保険を別々に手続きします。
労働基準監督署とハローワークの手続きに順序の制約はなく、それぞれ独立して提出できます。

【二元適用事業に該当する主な業種】

建設業、農林水産業(林業を除く)、道路貨物運送業、港湾運送業
ご自身の事業がどちらに該当するか不明な場合は、
所轄の労働基準監督署またはハローワークにお問い合わせください。


3.【ペナルティ】加入を怠るとどうなる?

「小さい会社だからバレないだろう」「保険料負担が厳しいから後回しにしよう」と考える経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、社会保険への加入は法律上の義務であり、これを怠ると様々なペナルティが科せられます。

①遡及適用と追徴金

加入義務があるにも関わらず手続きを怠っていた場合、発覚時点から最大2年間遡って保険料を徴収されます。
これは会社負担分だけでなく、本来従業員が負担すべき分も含まれるため、莫大な金額になることがあります。

【具体例】

月給30万円の従業員1人の社会保険料(健康保険・厚生年金)は、会社負担分と本人負担分を合わせて月額約9万円です。
これが2年分遡及されると、1人あたり約216万円もの支払いが必要になります。
複数の従業員がいる場合、その負担は雪だるま式に増加します。

②罰則規定

● 健康保険・厚生年金保険
正当な理由なく届出をしない場合、6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 (健康保険法第208条、厚生年金保険法第102条)

● 労災保険
故意または重大な過失により届出をしない場合、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 (労働保険徴収法第46条)

● 雇用保険
正当な理由なく届出をしない場合、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 (雇用保険法第83条)

※令和7年(2025年)の刑法改正に伴い、「懲役」から「拘禁刑」に変更されています。

③従業員とのトラブル

社会保険に加入していないことで、従業員から訴訟を起こされるリスクもあります。
特に、加入要件を満たしているにもかかわらず未加入だった場合、従業員が将来受け取れる年金額が減少するため、損害賠償を求められる可能性があります。

また、求人時に「社会保険完備」と記載できないため、優秀な人材の確保が困難になります。
昨今、求職者は待遇面を重視する傾向が強く、社会保険未加入は企業イメージの大きな損失となります。

④取引先からの信用低下

法人取引では、社会保険加入の有無が確認されることがあります。
特に公共事業の入札や大手企業との取引では、社会保険加入が参加資格の要件となっているケースが増えています。

未加入が判明すると、取引停止や入札資格の喪失につながる可能性があり、事業継続に重大な影響を及ぼします。

⑤年金事務所等からの指導

年金事務所は法人登記情報などから未加入事業所を把握しており、定期的に加入指導を行っています。
具体的には以下のような流れで指導が強化されます。

【指導の流れ】

・文書による加入勧奨:未加入の疑いがある事業所に対し、加入を促す文書が送付されます。
・訪問指導:文書に応じない場合、年金事務所の職員が事業所を訪問します。
・立入検査:それでも応じない場合、立入検査が実施されます。
・職権適用:最終的に、事業主の意思に関わらず強制的に加入手続きが行われ、最大2年分の保険料が一括請求されます。
・財産差押え:保険料を納付しない場合、預金口座や売掛金などの財産が差押えられます。
指導を無視し続けると、上記のような厳しい措置が取られることになります。

⑥助成金・補助金の受給不可

雇用関係の助成金(キャリアアップ助成金、両立支援等助成金など)を申請する際、
社会保険・労働保険への適正な加入が要件となっています。未加入の場合、これらの助成金を受けることができません。

【まとめ】

会社(法人)を設立したら、すぐに社会保険の加入手続きを行いましょう。

  ※覚えておきたいポイント※

✓ 手続きは年金事務所・労基署・ハローワークの3か所
✓ 一元適用事業と二元適用事業で手続き方法が異なる
✓ 期限を守って速やかに手続きを
✓ 未加入のペナルティは非常に重い(最大2年分の遡及徴収)
✓ 罰則は最大6ヶ月の拘禁刑または50万円以下の罰金
✓ 取引や助成金受給にも影響する

社会保険料の負担は確かに小さくありませんが、従業員の安心と会社の信用を守るための必要なコストです。
制度を正しく理解し、適切に運用することが、健全な会社経営の第一歩となります。


【さいごに】

起業時は資金繰りや営業活動に意識が向きがちですが、社会保険の加入手続きは会社の基盤を作る重要なステップです。
特に従業員を雇用する際は、その方の勤務時間や給与額によって加入すべき保険が変わるため、雇用契約を結ぶ前にしっかり確認しましょう。
「知らなかった」では済まされない義務だからこそ、設立と同時に確実に対応することが大切です。


【参考リンク】

日本年金機構 – 新規適用の手続き
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150311.html

厚生労働省 – 労働保険の成立手続
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/daijin/hoken/980916_2.htm

厚生労働省 – 社会保険適用拡大特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/

e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/

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手続きや制度について不明な点がある場合は、当センター相談員の社会保険労務士や、お近くの年金事務所・労働基準監督署・ハローワークにご相談ください。
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社会保険労務士 山田 拓 (社会保険労務士法人エリクス)
令和7年度 仙台市雇用労働相談センター相談員

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